「アラカさん、どうしたの？」

負けたーー
かつてないほどの敗北感。
いや、圧倒的な戦力差があることは分かっていたのだ。
今までだって勝てないことは何度もあった。
ただ、それでもーー

（年齢の割に大き過ぎない！？）

佐奈ちゃんの胸は、あまりにも巨大だった。
身体を洗うだけでそれがぶるんぶるんと揺れて跳ねているのを目の当たりにすると、なんか、もう

「か、格差社会……」

「アラカさーん、早く湯船入らない？」

「え、ええ。そうね」

いけないいけない、馬鹿なことを考えている場合じゃない。

この場所はどうにも屋敷に張った結界も、村全体にかけた術も効きが悪くなっている。
夜であれば、悪霊や妖魔の類ーー異界の主人の触手が伸びてきてもおかしくはない危険地帯だ。

（とはいえ、一応は結界の効力があるはず。
　攻撃を無効化されないのであれば、問題なく祓える）

今までも異界の悪霊は何度も何度も祓ってきた。
自分では「結構強い」ぐらいに言っているけれども、私は事実として極めて優秀なーー特に直接戦闘に優れた退魔師だ。

淫界による攻撃の無効化ーー私にとって唯一の致命的な要因が封じられている今の状況なら、むしろ悪霊が出てきてくれた方が手っ取り早いとすら言える。

「んー、あったかーい！
　今日は疲れたね……」

「そうね……  早めに眠りましょう。
　日が昇る前に起きなきゃいけないし……」

「あー、そうだな……  それに、ねむ、い、し……」

佐奈ちゃんは既にうとうとし始めている。
まあ仕方ないだろう。
これだけ動き回って、怖い思いもしたのだから気が緩めば眠くもなる。
とはいえここで眠らせるわけにもいかない。

「ホラ、起きて。　最低限の祓いはできたから、もう上がって布団に行きましょう」

「う、ん……  でも、ねむ、い……」

佐奈ちゃんは覚醒する気配すらない。
というか、支えてあげないと湯船に沈んでしまいそうな勢いだ。
糸が切れたような、と言うがこれはそれ以上に、睡眠ガスでも嗅いだようなーー

「シッ！！」

背後に左の裏拳を振り抜くと同時、右手で掴んだ佐奈ちゃんを湯船の外へ投げ飛ばす。
にぶい音と悲鳴が聞こえるが今は無視、目前の異形と対峙する。

（湯口から出てきたーー？
　触手、今は寄り集まって人型をしているけれども、解けて狭いところに入り込んできたのか……）

